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国破れて山河あり、此処にあるのは美しき海


のそり
のそ
のそり
大きな巨体がゆっくりと、崩れた白の瓦礫を避けて進んでいく。
のそ、のそ
俺はその様子をただじっと眺めていた。この場に似つかわしくない、でもいてもおかしくない一匹の・・・
「亀か・・・?」俺は背後からの声に少しばかり驚いた。それほどまでに、この亀の動きを目で追っていた。
「あぁ、どこからか迷い込んできたらしい」俺は後ろに立つソレントを振り向きもせず言った。
亀はその巨体を二本の腕でよいこらよいこらと動かす。よく見ると目からは大量の滴が垂れている。まるで泣いているかのようだ。
「泣いてないぞ」
ソレントの言葉に内心どきりとした。
コイツの言葉には重みがある。相手のことをすべて知っているかのようにその口はよく動いた。
「亀は目の横にある塩類腺という器官で塩分濃度を調節しているのだ。決して泣いているわけではない」
俺はようやくソレントを振り返ることができた。奴はじっと海の天井を眺めていた。
海は穏やか、魚たちはまるで踊りを踊っているかのように旋回する。ソレントの目はそれに釘付けだった。
そんな美しい海に対して神殿はボロボロのズタズタ、とてもじゃないがすべて元通りに直すのは骨が折れるだろう。
ソレントはようやく顔を亀に移した。
「この亀も、本来の場所へ帰してやろう」
ふっと微笑んだその顔が、年相応の幼さを含んでいた
「いつまでも亀に現を抜かしているようでは、神殿の復旧などいつまでたっても終わらんぞ、カノン」
「ッチ、わかっている」
俺は重い腰をあげた。
神殿の復旧はまだ始まったばかりなのだから。

語り部:カノン